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出生率上昇でも人口のV字回復は見込めない

移民受入による「人口増加を目指す道」が非現実的だとしても、出生率の大幅な上昇によって、人口のV字回復が可能との考え方があります。出生率が、人口置換水準を大きく上回れば、人口は回復する計算になるからです。しかも、過去の出生率の実績は、人口置換水準を上回っていました。戦後最高の出生率は、1947年の4.32です。

過去の出生率が達成できないのは、お見合いの機会や妊娠の動機づけ機会が少なくなったからだとして、多くの自治体が直接的な出生率上昇の施策に取り組んでいます。内閣府「少子化対策白書」には、自治体の婚活支援や妊娠教育の事例が紹介されています。

しかし、婚活支援や妊娠教育で出生率の上昇は可能なのでしょうか。また、人口置換水準を上回る過去の出生率に回復させることは現実的なのでしょうか。それには、それらが課題解決の適切な手法であることと、他の先進国等と比較して現実的な水準であることを見なければなりません。

「少子化対策白書」で考察すると、結婚については、晩婚化と未婚化が課題になっています。結婚に対する意欲は低下していません(1-1-10図)が、非正規雇用の人に相手が比較的いない(1-1-14図)という実情があります。若者の年収が低下していて(1-1-12図)、非正規雇用が拡大している(1-1-13図)ことから、当事者の認識(1-1-11図)はどうあれ、晩婚化と未婚化の背景に若者の労働環境という、構造的な問題があると分かります。

出産については、子育て費用や仕事に差し支えること、住宅環境、夫の育児参加等が課題になっています。図表をご覧ください。妻の全年代、特に若い世代で圧倒的に多い理由が子育て費用の高さです。高年齢や健康上の理由という、一見すると個人的に思える理由も、晩婚化の結果と捉えれば、社会の問題であると分かります。

希望出生率1.8というのは、これらの社会的な課題をすべて解決して、はじめて実現するのです。婚活支援で夫婦数が多少増えても、妊娠教育で知識が多少増えても、構造的な課題を解決しなければ、出生率は増加しません。

さらに、人口置換水準2.07を達成するには、子育て・若者向けの社会保障や予算を大胆に増額する必要があります。欧米で低下した出生率を回復させた国々(1-1-22図)は、所得等の経済的支援と、育児休業等の両立支援に取り組み、公的支出は日本の2~3倍あります(1-1-23図)。人口置換水準を目指すということは、約20兆円の日本の公的支出を2倍から3倍に増加させることを意味します。

つまり、若者の労働環境の改善と社会保障の強化を抜本的に行い、公的支出を2~3倍増しても、人口置換水準に届くのが精一杯で、人口のV字回復は見込めないのです。

【図表】妻の年齢別にみた、理想の子供数を持たない理由(内閣府「少子化対策白書」)

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