文系自治体職員でもできる!持続可能な地域のつくり方講座 公共施設エネルギー性能の効果は光熱費の削減だけでない(4)

第四の効果は、地域の建築事業者の技術力向上です。建物の躯体性能を向上させることは、作業工程が増え、施工に注意が必要となるため、建築事業者の手間賃を増加させることになります。とりわけ、中小規模建物や住宅、既存建物の躯体性能の向上は、大資本のゼネコンからすれば、営業コストばかりかかってしまうため、地域の中小建設会社や工務店が市場の主力になります。よって、公共施設に限らず、エネルギー性能の高い建物を普及しようとすれば、こうした事業者の技術力を高めることが重要になります。 地域の建築事業者の抱える課題は、技術力を高めにくい環境にあることです。大資本のゼネコンと異なり、社員の技術力を高める開発や教育への投資は小規模になりがちです。それをサポートするシステムは市場にありますが、玉石混交なのが現実で、建築物理学の観点からすると間違った独自工法を普及するサポートやフランチャイズもあります。また、高性能の建物を手がける経験も少なく、従来型の建物だけを建てているため、高い技術を実地で身につける機会も少ないのです。 そこで、公共施設の新築・改修の機会を活用し、地域の建築事業者の技術力を高めることが必要になります。公共施設そのものは、高いエネルギー性能を要求すれば、技術力のある域外の事業者が受注するかも知れません。けれども、自治体と地域の建築事業者等で予め協議会を構成し、発注に際して協議会による現場研修を条件としておけば、その技術を地域の事業者が実地で学べます。並行して、専門家を招いての座学研修、海外の専門機関でのトレーニング、会員の現場における実装など、協議会で勉強を重ねれば、より効果的でしょう。

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第三の効果は、設備更新費用の縮小です。建物の長寿命化と似ていますが、異なる概念です。例えば、10億円の建設費を要し、10年ごとに1億円、20年ごとにさらに1億円の設備更新費を要する公共施設Aと、12億円の建設費を要し、10年ごとに5千万円、20年ごとにさらに5千万円の設備更新費を要する公共施設Bを仮定しましょう【図表】。Aの60年間のトータルコストは、17億円です。同じ期間のBのトータルコストは、15億5千万円です。このように、公共施設の躯体性能を高め、設備に頼らずにエネルギー性能を高めると、必要な税金は少なくて済みます。 設備は、どのような設備であっても、躯体と比べ物にならないくらい早く消耗します。長寿命で知られるLED照明で約8~10年。高効率の空調・給湯設備で約10年~15年。さらに長寿命の太陽光発電パネルでも20年~40年。太陽光発電で不可欠のパワーコンディショナーは約10年。丁寧にメンテナンスしたとしても、一定の年限がくれば、使えなくなってしまいます。 一方、躯体は丁寧に建設・メンテナンスすれば、数百年間でも使い続けられます。もちろん、メンテナンスしなければ躯体も劣化が進みますが、それは躯体の性能を高めても、高めなくても同じことです。そもそも躯体をメンテナンスしない場合は、エネルギー性能だけでなく、構造の劣化も進みますので、いずれにしても使用できなくなります。 実際、公共施設のエネルギー性能向上で先んじているドイツ政府は、躯体のエネルギー性能を高めることが、設備更新費も抑えることになると認めています。2018年4月17日に東京で開かれた「日独省エネシンポジウム~商業ビ

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第二の効果は、建物の長寿命化です。公共施設を長期にわたって使用できれば、その分だけ税金の投入を減らせます。例えば、10億円の建設費を要し、10年ごとに1億円の維持管理費も要する公共施設を仮定しましょう。30年ごとに建て替える場合、60年間のトータルコストは、24億円です。一方、60年ごとに建て替える場合、60年間のトータルコストは15億円です。このように、公共施設を長寿命化するほど、必要な税金は少なくて済みます。 建物はどのような素材であっても劣化は免れず、鉄筋コンクリート造も例外でありません。強アルカリ性のコンクリートは、二酸化炭素に触れることによって、徐々に中性化していきます。中性化が、中の鉄筋にまで及ぶと、鉄筋の表面に形成されている被膜が破壊され、鉄筋が錆び始めます。 鉄筋コンクリートでは、中の鉄筋が錆びると、その強度を維持できなくなります。それには2つの原因があります。一つは、鉄筋の断面が縮小することにより、鉄筋の強度が低下します。もう一つは、錆による体積膨張が内部で圧力を発生させ、周囲のコンクリートの破断・ひび割れに至ると、コンクリートの強度が低下します。すなわち、鉄筋コンクリートとしての構造的な強度を保てず、その建物が使用できなくなるのです。 鉄筋コンクリートの劣化を防ぐ(遅らせる)には、表面を空気に触れさせない必要があります。例えば、ペンキで塗装すれば、鉄筋コンクリートと空気の間に塗装被膜ができるため、劣化を防ぐことができます。一方、塗装には剥がれやすいという弱点があります。とりわけ風雨にさらされると、その弱点は顕著になります。鉄筋コンクリート造のマンションで、1

文系自治体職員でもできる!持続可能な地域のつくり方講座 公共施設エネルギー性能の効果は光熱費の削減だけでない(1)

公共施設のエネルギー性能を高める効果は、光熱費の削減だけにとどまらず、多岐にわたります。日本では、暑さ寒さに耐えて光熱費をケチる傾向があり、光熱費の使用実績から削減見込額を出すと、エネルギー性能の高い建物はペイしないと評価されることもあります。すると、エネルギー性能の低い建物の方が選ばれてしまうことになります。そこで、効果を複合的に考察する必要があります。 第一の効果は、施設を利用する人々の知的生産性(学習効率を含む)の向上です。公共施設の中には、役所庁舎のようにオフィスとして使う施設や、小中高校のように教育の場として使う施設があります。こうした公共施設の目的の達成を促進することに役立つのです。 知的生産性に影響を及ぼす4つの環境のうち、一つが物理的環境とされています。物理的環境とは、温熱環境や空気質、光環境、空間の質のことです。適度な室温、適度な換気(二酸化炭素濃度の低さ)、適度な明るさ、適度な広さが、知的生産性に影響を及ぼすのです。なお、その他3つの環境とは、人間的環境(対人関係)、社会的環境(社会的地位、仕事内容)、個人的環境(モチベーション、体調、仕事のやりがい)です。 適切な方法によるエネルギー性能の向上は、物理的環境を改善するとともに、その維持コストを減らします。断熱・気密が年間の室温・湿度を安定させ、熱交換換気が二酸化炭素濃度の上昇を抑制し、照度を丁寧に管理し、冷暖房(採暖)のための狭い間仕切りを不要にするためです。 知的生産性と物理的環境の関係は、近年の研究によって明らかになってきています。村上周三他『教室の環境と学習効率』がその代表的な研究です。本書には、室温

文系自治体職員でもできる!持続可能な地域のつくり方講座 エネルギー性能の高い公共施設をつくる(6)

公共施設は、地域熱供給の核にもなります。熱供給とは、個々の建物や部屋で冷暖房や給湯の熱源設備(空調や給湯器など)を取り付けて需要を賄うのでなく、センターに熱源設備(ボイラーなど)から冷暖房や給湯の「熱」を配るシステムです。それを敷地の異なる複数の建物間に配ると、地域熱供給となります。日本では地域冷暖房とも呼ばれ、東京・丸の内など大都市の高層ビルが林立する地区の一部で行われているだけですが、ドイツやデンマーク、スウェーデンなどでは多くの都市で一般的に備わっているシステムです。 地域熱供給の魅力は、建物それぞれにボイラーを備えるよりも、エネルギー効率を高められることです。なぜならば、ボイラーは一般的に大型化するほど高効率になるからです。ボイラーは、最大出力で運転しているときにもっとも高効率となるよう設計されているため、需要を調節できれば、高効率での運転時間を長くすることもできます。 ボイラー費用が相対的に安くなることも魅力です。複数の建物で同時にエネルギー消費が最大化する可能性が極めて低いため、それぞれの建物のボイラーの出力合計よりも、小さな出力合計で済みます。その分だけ、10年から20年に1度のボイラー更新費用も安くなります。恒常的に熱を排出する施設(工場や廃棄物焼却施設など)が近くにあれば、そもそもボイラーを設置せず、その排熱を利用することもできます。 近年、注目されている魅力は、再エネの利用しやすさです。センターのボイラーを木質バイオマスなどの再エネに替えれば、一気に面単位の再エネ導入が進むことになります。コジェネにすれば、発電もできます。 問題は、日本のほとんどの都市に熱導

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設計プロセスを指定することに加え、エネルギー関係の設計・設備の検討に際しての優先順位を基本設計の仕様書に指定しておけば、より効果的です。これは「予算度外視で究極の高いエネルギー性能の建物をいったん設計」する段階での優先順位です。予算額に達するまで引き算するときの根拠は、費用対効果です。これらを混同しないよう、注意してください。 優先順位は「断熱>気密>日射コントロール>換気>通風>設備>再エネ熱>再エネ電気」となります。自然光による「採光」は「日射コントロール」に含みます。空調や給湯機、貯湯槽(蓄熱タンク)は「設備」に含みます。熱と電気を同時につくるコージェネレーション設備(コジェネ)は「再エネ熱」に含みます。蓄電池はいずれにも含みませんが、検討する場合は「再エネ電気」の次に「電気自動車(蓄電池として使えるタイプ)>蓄電池」と続けます。 この優先順位で検討することにより、もっとも安い「予算度外視で究極の高いエネルギー性能の建物」を設計できます。予算度外視といっても、あくまでそれは「予算制約を気にしないで設計する」というだけで、合理的な設計を放棄させるわけではないのです。 本来であれば、この優先順位をすべての設計者が理解していることが望ましいのですが、残念ながらそうでないため、仕様書で指定しておくことが重要です。これにより、エネルギー消費を最小にすること、施設の機能・快適性を確保すること、財政的負担を抑制することが同時に確保できます。また、屋根に太陽光発電を取り付けたり、待合室に薪ストーブを置いたりするだけの「環境アリバイ」型の公共施設を避けることができます。 ドイツでは、この考

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ZEB/ZEB Nearly概念を超えて、真に持続的なエネルギー性能の高い公共施設を設計するためには、設計プロセスを基本設計の仕様書で指定することが必要になります。「この手順で設計し、その手順を踏んだことを客観的に示せるようにしてください」と、自治体が仕様書で指定すれば、設計者はそのとおりに設計します。仕様書は、担当の技術職員だけで決めるものでなく、必ず庁内会議や決裁を経ます。そのときに、設計プロセスを入れ込むのです。 指定するプロセスは「予算度外視で究極の高いエネルギー性能の建物をいったん設計した後、予算額に達するまで、費用対効果の低い設計・設備から引き算すること」です。発注者が後で検証できるよう、その計算ロジックも示せるよう、あわせて指定します。また、費用対効果には、設備更新と維持管理の費用も含めさせます。当然ながら、仕様書に供用予定年数を入れることも必要です。 これにより、予算の範囲内で得られる最高性能で、かつランニングコストも抑制できる施設になります。疑義があれば、設計者からデータと金額で説明してもらえますし、設計への要望事項についても、定量的に検討できます。基本設計が決定した後、議会や住民に対しても、データと金額で設計の合理性を説明できます。詳細設計は、基本設計の範囲内で行われるので、後はそのとおりに行われているかチェックすれば事足ります。 もちろん、新築だけでなく、エネルギー性能の向上を目的とした大規模改修においても有用です。設計者は、仕様書の範囲内で仕事をしますので、新築でも改修でも自治体の作成する仕様書が肝心なのです。 この方法であれば、建築・エネルギーの専門的

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政府のZEB/ZEB Nearlyだけでは、真に持続的なエネルギー性能の高い公共施設に不十分なため、自治体職員の積極的な取組みが必要になります。公共施設の仕様は、どうしても技術職員に任せがちとなりますが、事務職員であっても大いに意見を述べることが大切です。そのためには、事務職員であっても、一定の知識を身につけておかなければなりません。といっても、難しいものではありません。 身につけるべき知識の第一は、建物の形状とエネルギー消費の関係です。【図表】の2種類の建物のうち、中の熱が逃げにくい形状は、A(凹凸や渡り廊下などが豊富なデザイン性高い建物)とB(箱形のシンプルな建物)のどちらでしょうか。 空間内部の熱は、同じ体積・同じ素材の壁であっても、表面積が多くなるにつれて、外に放熱し(逃げやすくなり)ます(外の温度と等しくなるまでの時間が短くなります)。外と内の接する面が増えるため、それだけ熱が伝導するためです。自動車などのエンジンは、この原理を活用して、効率よく熱を逃がしています。 よって、箱型のシンプルな建物がもっとも放熱しにくいことになります。究極的には、球型の建物がもっとも放熱しにくいのですが、実際的ではありません。そのため、正解はBとなります。ちなみに、箱型の建物であっても、バルコニーや出窓などの突起状のデザインを備えれば、表面積が増えるため、放熱を助長してしまいます。ですので、基本設計や仕様書の段階で、機能面で特に必要ない凹凸はできる限り排除するのが基本になります。 施設の目的に照らして、突起状のデザインが必要になる場合は、建物と突起物の接合部に断熱材を挟み、金属やコンクリ

文系自治体職員でもできる!持続可能な地域のつくり方講座 エネルギー性能の高い公共施設をつくる(2)

政府は、2020年までに新築公共施設でZEBを実現し、2030年までに新築建物の平均をZEBにすると目標を立てています。これは、2014年に策定されたエネルギー基本計画に記載されています。一見すると、意欲的な目標に思えます。けれどもEUでは、2019年に新築公共施設で義務化、2021年に新築ビル等で義務化となっていますので、それに比べれば意欲的な目標とはいえません。 政府のいうZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)には、定義があります。平成28年省エネ基準と比較し、建物と設備の性能で50%以上の省エネを実現した上で、太陽光発電等の再エネで残余のエネルギー消費を賄う建物を指します。建物の省エネで想定されているのは、高断熱化、日射遮へい、自然換気・採光、設備で想定されているのは、空調、換気、照明、給湯、昇降機の高効率化です。建物と設備の性能で50%以上の省エネを実現した建物を「ZEB Ready」、建物と設備、再エネのトータルで75%以上の省エネを実現した建物を「ZEB Nearly」、トータルで100%以上の省エネを実現した建物を「ZEB」と呼びます。 ちなみに、ZEBと同様に住宅においてもZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という概念があります。政府は、2020年までに標準的な新築住宅でZEHを実現し、2030年までに新築住宅の平均をZEHにすると目標を立てています。ZEHと異なるのは、省エネよりも再エネに力点が置かれていることで、平成28年省エネ基準と比較し、建物と設備の性能で20%以上の省エネを実現した上で、再エネで残余のエネルギー消費を賄う住宅を指します。建物と設

文系自治体職員でもできる!持続可能な地域のつくり方講座 エネルギー性能の高い公共施設をつくる(1)

前回までの講座で、公共施設を持続可能にするために考慮すべき事項が、6点あることを解説しました。第一は目的、第二は立地、第三は稼働、第四は寿命、第五は費用、第六はパリ協定です。持続可能といっても、環境面だけに配慮すればいいわけでなく、環境以外の視点も持続性を決定づけるのです。それらをすべてクリアして、初めて環境、すなわちエネルギーでの持続可能性を追求する土俵に立つことになります。 今回からの講座では、それらのクリアを前提にして、エネルギーの観点で持続可能な公共施設をつくるための解説をします。これまでと同様に、技術面の知見に乏しい文系の事務職員でも分かるように、むしろ事務職員でも主導できるように解説します。 エネルギー効率の高い建物を検討する際には、次の3つの原則が重要になります。これらの原則に則らなければ、数値としてゼロエネルギービル(ZEB)になっても、持続可能な建物にはなりません。 第一は、建物の形状をできる限りシンプルにすることです。外気の温度と建物の中の温度は、それぞれにエネルギーを与えない限り、時間が経つにつれ、等しくなっていきます。その差は、建物の表面積が大きくなるほど、早く縮まります。同じ体積の建物の場合、正方形の形状よりも、三角形の屋根やベランダ等の突起のある形状の方が、早く放熱します。自動車などのラジエーターの形状が多くのヒダでできているのも、表面積を大きくして、素早く熱交換するためで、同じ原理です。 第二は、予算度外視で究極の高効率建物をいったん設計した後、予算額に達するまで、費用対効果の低い設計・設備から引き算していくことです。これにより、建物のエネルギー効

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