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貧困対策での住宅の重要性を16世紀に見抜いていたフッガー

人口減少社会では、貧困世帯の所得を高め、地域経済の需要を確保することが重要になります。貧困世帯の所得を高めるためには、家賃・光熱費・交通費からなる「実質的な家賃」を減らし、自らや子どものための資金を捻出することが考えられます。ところが、光熱費・交通費のエネルギー費用は、貧困世帯の家計を圧迫する構造になっています。民間賃貸住宅は、貧困世帯から資産世帯への所得移転という性格を持ち、さらにサブリース契約によって資産世帯からサブリース企業への所得移転という連鎖になっています。要は、貧困世帯のなけなしの所得を利益源とするビジネスモデルが、賃貸住宅を核に回っているわけです。この構造に手を付けなければ、貧困対策はなかなか進みません。

世界で初めて、貧困対策での住宅の重要性に気づいたのは、おそらく16世紀のドイツ人、ヤコブ・フッガーです。フッガーは、1521年のドイツ・アウグスブルクで、生活に困窮する市民のため、低家賃の住宅「フッガーライ」を建設しました。1年間の家賃は、わずか100円(1ライン・グルデン=0.88ユーロ=約100円)です。フッガーライに住むのは自立する意思のある貧困者で、所得が改善すると、フッガーライを出ることになっていました。アマデウス・モーツァルトの曾祖父もフッガーライに住んでいたそうです。

フッガーライの驚くべき点は、現在も当時の建物が現存し、同じ目的で使用されていることです。家賃は、1521年以来アップせず、現在も約150人の住人が生活しています。1521年といえば、戦国武将の武田信玄が生まれた年です。第二次世界大戦で一部の建物が被害を受けましたが、戦後に再建されました。

フッガーライは、アウグスブルクの中心部近くの市街地にあり、すぐそばの停留所から、市内のどこへでも路面電車・バスで速く、安く移動できます。ドイツの都市では、公共交通の年間パスを買うのが一般的で、市内どこへでもいつでも乗り放題です。自動車を所有する必要性は薄いといえます。

日本の公営住宅や賃貸住宅でありがちな、安普請の建物ではありません。長屋形式ではありますが、2階建のメゾネットタイプで、各住宅には専用の玄関があります。敷地全体で一つの街区になっていて、入口の門の脇には美味しい料理を出すレストランがあり、敷地内には店やカフェがあります。建物は一定の断熱性があり、ガス暖房があるため、冬でも寒さや結露に悩むことはありません。また、建物にはゴシック様式の装飾も施されていて、今でいうデザイナーズマンションになっています。

フッガーライには「貧乏人は雨露しのげるだけ、ありがたいと思え」という発想が一切ありません。一方、日本の公営住宅は未だ、そうした考え方に配慮していることもあって、投資が難しい状況です。人口減少社会では、貧困対策が地域全体に大きなメリットをもたらすとの認識を共有し、フッガーライに見習った住宅政策を進めていく必要があります。

【図表】フッガーライ(撮影:田中信一郎)

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