貧困脱出の足かせとなっている「実質的な家賃」
貧困からの脱出を目指すとき、最初に行うのは支出を見直すことでしょう。不要不急の支出を削減し、生きるために不可欠な支出や、貧困脱出に必要な支出に回すのです。金銭的な余裕ができれば、時間的な余裕もねん出しやすくなりますので、就職活動や資格の勉強、生活の改善なども行いやすくなります。
問題は、そもそも自由になる支出がないため、見直す余地のないことです。あえて削るとすれば、食費や衣服費、通信費で、それも限界があります。医療費や子どもの教育費を削減すれば、生活すら成り立ちません。
貧困世帯の家計を圧迫しているのは、家賃・光熱水費・移動費の「実質的な家賃」です。具体的に見てみましょう。民間のワンルーム賃貸住宅の家賃は、業界団体によると、全国平均で月額約5万円です。これに共益費や2年ごとの更新料が上乗せされますので、月額7万円と仮定しましょう。光熱水費は、総務省の家計調査年報によると、年収273万円以下の2人以上世帯で月額約1万8千円です。移動費は、軽自動車1台を保有している場合、図表のとおり、ガソリン代や税金などで年間約36万円かかります。これに、軽自動車購入費(諸経費込60万円で購入し10年間使用)を上乗せすれば、月額3万5千円となります。すると、これら実質的な家賃だけで、12万3千円となります。少々切り詰めるとして、キリよく月額12万円と仮定しましょう。もし、この世帯の月収が17万円ならば、残りは5万円となり、ここから食費、衣服費、教育費、通信費、その他の生活費をねん出することになります。この5万円をいくら削ろうとしても、削りようがないのです。
家賃・光熱水費・移動費は、それぞれ密接に関係して決まっているため、実質的な家賃と一まとめに見なすのが適当です。家賃は、建物の性能と場所に左右されます。建物の性能が高ければ、暖房費をそれほどかけずとも暖かく過ごせますが、低ければ暖房費をかけなければ寒さに震えることになります。便利な場所に住宅があれば、自動車はいりませんが、家賃が上がり、不便な場所にあれば、家賃は下がりますが、自動車が不可欠になります。例えば、自動車がなくても比較的移動しやすい、東京都の平均家賃は約6万7千円となっています。逆に、地方都市では、家賃が安くても、自動車が無ければ仕事にも行けません。
自治体で貧困対策を進める場合、この実質的な家賃に目を向ける必要があります。なぜならば、実質的な家賃は、都市構造(高額・不便な公共交通や自動車依存の街区)や民間賃貸住宅の供給構造、住宅の標準的な水準など、貧困の当事者ではどうにもならないことで決まるからです。自治体の公営住宅は、重要な解決策の一つですが、供給数の少なさや立地の不便さ、性能の低さ(老朽化)など、貧困からの脱出を妨げる要素もあります。
これは、貧困対策において、自治体がもっとも重視して取り組むべき分野です。なぜならば、民間のNGOでは取り組めない分野であり、自治体にしか対応できないからです。
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