地域経済で必要な5つの政策
人口減少、需要過少、技術転換という3つの課題に対し、5つの政策を打つことで対応できます。すべてが自治体で完結できる政策ではなく、国レベルで取り組むべきものもあります。ただ、そうした政策についても、自治体から積極的に提案・要望することで、実現を目指していくことが重要になります。
第一の政策は、労働生産性の向上です。一人当たりの稼ぐ力を高めることで、人口減少に比例した経済縮小を緩和します。それには、ブログ「国際比較でも労働生産性が低い日本」で解説したように、より短い労働時間で、より稼ぐ経営をしなければなりません。そのためには、従業者の自発的な創意工夫を引き出し、様々なレベルでイノベーションを起こしていく必要があります。
第二の政策は、衰退産業から成長産業へと働き手を移動させることです。衰退産業が市場から退出することは自由経済であるため避けられませんが、働き手をスムーズに移行させることで、失業を防止しつつ、成長産業の人手不足を解消し、労働生産性を高めます。ブログ「雇用のミスマッチとトレーニング」で解説したように、日本はこの点への公的支援が他の先進国に比べて非常に弱く、トレーニングやリスクが働き手個人の負担になっています。
第三の政策は、輸入置換です。域外から購入している製品・サービスについて、域内での供給に切り替えることで、域外の生産額を域内に置き換えます。ジェイン・ジェイコブズは、著書『発展する地域衰退する地域』(筑摩書房)で、輸入置換こそが都市の発展で重要と指摘しています。ただ、置換するときに製品・サービスの価格が高く(質が低く)なってしまえば、社会全体での効率は低下し、域内の消費者が過剰なコストを負担しなければならなくなります。そのため、強引に輸入置換を進めると失敗します。
第四の政策は、負の効用に由来する経済活動を正の効用に由来するものに転換することです。例えば、大きな病気をすれば、医療分野で生産額が増加します【図表】が、病気の予防のためにジムへ通えば、スポーツ分野で生産額が増加します。マクロで見れば、いずれも生産額を増加させるものですが、同じ金額の消費額であっても、当人や社会にとっての効用はまったく異なります。前者は生活の質を元に戻す消費(戻るとは限りません)ですが、後者は生活の質を向上させる消費(病気にならないとは限りません)です。
第五の政策は、価値の創出です。今まで誰も欲しいことに気が付かなかった製品・サービスを生み出し、手に取らせることです。例えば、SONYのウォークマンは、いつでもどこでも音楽を聴けるプレーヤーで、世にでるまでそうした製品が欲しいということに、誰も気が付きませんでした。また、アップルの製品は、そのデザインやコンセプトが価値となり、他社の類似製品との差別化につながっています。
【図表】国民医療費の推移(厚生労働省「平成27年度国民医療費の概況」)