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サービス産業の労働生産性

前回の政策ブログ「雇用のミスマッチとトレーニング」では、職業訓練への公的支援の薄さが人手不足を助長していることを解説しました。その背景には、職業能力の修得を自己責任原則としている社会の問題があります。

一方、「サービスの職業」や「運搬・清掃等の職業」におけるミスマッチは、背景の課題が異なります。職業訓練が課題になっているのは、専門的・技術的な職種です。サービス等の職種は、専門的な知見を比較的求められない職種です。それでいて、事務の職種と異なり、対人コミュニケーションや肉体労働を求められます。相対的に、賃金が高くないものの、精神的あるいは肉体的負担が求められる職種といえます。

これらの職種では、知見による労働移動の壁が低いため、賃金を高くする(待遇を改善する)か、負担を軽くするか、あるいはその両方を実現することによって、人手を確保することが必要です。言い換えれば、より市場原理を反映させるということです。

しかし、構造的な問題があるため、人手の確保がうまくいっていません。一時的な需給バランスの問題であれば、次第に改善するはずです。実際には、大手飲食サービス業において、人手確保の問題から、店舗を閉鎖したり、営業時間を短くしたりすることが行われています。それは、人手不足が一次的なバランスの問題でなく、恒常的な問題だからです。

構造的な問題とは、労働生産性の低さです。従業者一人当たりの稼ぐ金額が低いため、賃金を上げて、人手を確保することができないのです。図表は、産業別の労働生産性について長野県と全国平均を比較した表です。「宿泊業、飲食サービス業」の労働生産性は、長野県で188.9万円、全国で184.5万円です。労働生産性の金額は、従業者の賃金、企業の利益(報酬・配当・内部留保)、税金で構成していますので、これを上昇させなければ、基本的に賃金は上がりません。もちろん、それらの構成比の問題も軽視はできませんが、200万円前後の労働生産性では、利益もほとんど出ません。

労働生産性を決める大きな要素は、業務効率とビジネスモデルです。いずれも従業者が関与できる余地は低く、主として経営の問題になります。逆に、業務効率の低さとビジネスモデルの課題を、従業者の努力で解決しようとすれば、従業者に過度な負担をかける、いわゆる「ブラック企業」になります。

要するに、労働生産性を高めるには、経営者の経営能力を高める必要があります。人口増加期は、サービスや運搬・清掃等の職種を希望する人は多く、賃金や負担の課題を従業者にしわ寄せし、労働生産性を高める経営努力が不十分なままでした。人口減少期に同じ経営をしていては、人手を確保できず、事業の継続もできません。経営者が、ビジネスモデルと業務効率の改善を不断の努力をしなければ、その企業は淘汰されてしまうのです。

【図表】長野県と全国の産業別労働生産性(経済産業省「地域経済分析」)

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