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移住者の増加で地域人口はV字回復するか?

日本全体で人口が減少し、出生率の上昇に限界があるとしても、地域単位で見れば、移住者の増加で地域人口がV字回復することが、可能性としてはありえます。全国的にどこの地域でも人口が減少しているのに、特定の地域だけ、人口が流入し続けるという状況です。

実際、移住者の増加で人口減少が増加に転じた地域はあります。例えば、北海道ニセコ町は、1980年まで人口減少で、その後横ばいでしたが、2000年から増加傾向にあります。これは、全年代で域外からの移住者が人口流出を上回っているためです。将来人口推計によると、2025年頃まで人口増加が続き、2040年頃まで横ばい、それでも高齢者人口が増加するため、その後に減少していくと想定しています。

それならば、どこの地域も増加に転じる可能性があるのでしょうか。ニセコ町は、国際的なスノーリゾートとして名高く、2009年から2013年の間で転入元としてもっとも多いのは外国です。この特殊要因に加えて、オープンな町政や環境に配慮したまちづくりなど、町政と住民も自らを変化させるため、大きな努力を払っています。民主的な行政運営を定める「自治基本条例」を全国で初めて制定したのも、ニセコ町です。それでも、増加は永遠に続かず、2040年頃から急激な減少に転じると予測されています。

残念ながら、移住増加の特殊要因がない多くの自治体では、移住者で人口増加に転じる可能性はありません。なぜならば、人口流出が大きくなり、流入がそれほど増加しない構造的な要因が、日本全体に横たわっているからです。図表は、長野県の社会移動の動向です。東京や大阪、名古屋、京都等の大都市を除けば、全国の地方もこれに近い社会移動の動向になっています。

非大都市圏の社会移動の特徴は、若者が移動せざるを得ない点にあります。おおむね10代後半に地方から大都市へ流出し、20代から30代で大都市から地方に戻ってくるのが基本ですが、過去に比べて流出傾向に変化が少ない一方、流入が弱まっています。要は、進学で大都市に行き、そのまま大都市で就職してしまう人が増えているのです。60歳前後で流入増加の傾向はありますが、若者の流入減を打ち消すほどではありません。

最大の構造的要因は、大学など高等教育機関の大都市集中にあります。18歳人口に対する大学入学者数で見ると、後者が上回るのは東京と京都だけで、他の道府県は下回っています。全国32道府県で、18歳人口に対する大学入学者数は4割以下で、長野、福島、和歌山では2割を切っています。こうなると、大学進学を望むならば、出ていくしかありません。

つまり、移住者の増加によって、人口をV字回復させることは非現実的です。もちろん、人口減少の勢いを緩和するために、移住者を増やすための努力は重要です。ただ、構造的要因を無視して、本人の望まない社会移動を止めることはできないのです。

【図表】長野県の年齢階級別社会移動の長期的動向(1980~2010年)(長野県「信州創生戦略参考資料」)

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